収差の補正:理想のレンズとはどんなものか

レンズのレビューを読むとき、よく耳にするのが「収差」という言葉です。レンズの欠陥を表していて、画質を落とす張本人です。

では、なぜ「収差」について知る必要があるのでしょうか?

ものを選ぶとき、何かの基準と比較しないと、良し悪しがわかりません。レンズもそうで、理想のレンズとして模範が必要です。

レンズはある一点から集めてきた光をセンサー上のある一点に変換する役割を担っています。完璧なレンズはこれを全ての点、全ての色の光に対してできているレンズです。

理想のレンズの結像
収差が発生するレンズの結像

理想状態のレンズをイメージするのがなかなか難しいですが、収差が発生したらどうなるでしょうか?解像度が落ちるのが共通しています。それ以外は収差の種類ごとにみていきましょう。

(結果だけ知りたいかたはこちらのテーブルをご参考ください)

収差の種類目立つ箇所発生しやすいレンズ絞り補正リタッチ効果
球面収差全体大口径×
コマ収差周辺大口径×
非点収差周辺全部×
像面湾曲広角××
歪曲収差周辺広角(樽型)
望遠(糸巻き型)
×
軸上色収差全体大口径、望遠
倍率色収差周辺部全部×

球面収差

名前の通り、レンズの表面が球面であることから発生している収差です。

球面は加工しやすいから、レンズに古くから使われています。しかし、球面は光軸に平行している光をうまく一点に収束することができません。

球面収差によって、本当の焦点に像が結ばない

上の図に、本当の焦点はFですが、球面収差によって、クリアに見えるのはやや手前のポイントになってしまいます。それより後ろの部分は後ボケ、前の部分は前ボケです。

後ボケ(左から3と4つ目)は外が暗く、中心が明るい光の円盤になっています。このようなボケはスムーズなボケと言われています。

スムーズなボケ

逆に、前ボケ(左から1つ目)は外が明るく、中心が暗い円盤になっていて、硬い二線ボケと言われています。

硬い二線ボケ

普通の写真はピントより後ろの部分をぼかすケースが多いので、球面収差によってスムーズなボケが得られます。球面収差にもメリットがあるのです

しかし、解像度が落ちるので、現代のレンズは非球面レンズで補正します。補正が効きすぎると、後ボケも二線ボケになってしまいます。ライカ35mmズミクロン七枚玉が未だに根強い人気がある一つの理由は、非球面レンズを採用していないことによって、ボケがきれいだからです。

コマ収差

コマというのは彗星のことです。円だったはずのものが彗星のようにしっぽがついて現れる収差です。

下の写真のように、星が鮮明に写らないです。ボケの場合にも同じような形になるので、球面収差のような「メリット」はありません。

コマ収差

球面収差は光軸と平行している光による収差ですが、コマ収差は光軸外の光が一点に収束しない状態です。

コマ収差(From Wiki

球面収差はピントが前後ずれて、画像がボケて見えると違って、コマ収差は平面上のピントズレによって滲んでいるように見えます。

コマ収差を補正するためにも非球面レンズを使います。あるいは単純に絞りを小さくします。入射光の量が減るので、ズレの発生も少なくなります。

非点収差

縦線あるいは横線の片方しか鮮明に写らないのが非点収差です。もう片方はボケてしまいます。

下の写真にあるように、縦方向が長くなっているように見えます。

非点収差によって、点が長引いているように見える

同じ点から発射する縦と横の光の結像が前後分かれてしまう状態です。前後にズレるという点は球面収差と同じです。

非点収差

非点収差は画像周辺になればなるほど強く現れます。絞っていくと解消されていきます。

像面歪曲

平面にピントがあっているので、なぜか周辺がボケてしまうケースがあります。それは象面歪曲が悪さをしています。

象面歪曲によって、周辺がボケてしまう

結んだ像が平面になれず、曲面の形になる状態です。

像面湾曲(From Wiki

象面歪曲も絞ることによって、改善することができます。

歪曲収差

直線が歪んで写る状態です。特に逆望遠の広角レンズでよく現れます。

こちらの収差はリタッチで解消できる収差です。解像度にもそこまで影響しませんので、深く話しません。

歪曲収差の糸巻き型(左)と樽型(中央)をリタッチで校正される

色収差

ここまでの収差は色を考慮していないものです。しかし、色(光の波長)によって、レンズの屈折率が違います。同じ点からの光は様々な色成分があり、色の違いによって同じ点に収束できないことを色収差が発生します。

色によって屈折率が違う

大きく分けて軸上色収差と倍率色収差があります。結果として、被写体の辺の部分にパープルフリンジとして現れることが多いです。

リタッチで除去できる場合もありますが、象面歪曲のようにきれいにできるとは限りません。また、絞ればある程度の改善ができますが、倍率色収差には効きませんので、一部残ってしまうことになります。

より詳しい話はこちらのブログ(外部)をご参考ください。

まとめ

理想のレンズは上のような収差が一切発生しないレンズです。でも未だに収差の話がよく出てきているということは、補正するのが非常に難しいです。

実際の撮影で必ずレンズの収差に出会います。しかし、適切に扱うことによって、所有しているレンズの弱点をある程度回避できます。コマ収差が大きいなら、光の点在する夜景に使わないとか、色収差が大きなら、逆光を避けるなどの使い方ができます。

ただ、あえて収差を利用した創作もできます。ソフトフォーカスレンズやいろんなビンテージレンズがそれに該当します。レンズに詳しくなればなるほど、面白いエフェクトが生み出せるので、楽しみも広がっていきます。

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