19世紀レンズ設計のまとめ

この記事は写真が発明されてから、光学レンズ設計のたどった道をまとめます。主に19世紀の古典レンズに焦点を当てます。
詳しい解説はこちらの記事をご参考ください。

設計名	年代	メーカー	設計者	主な改善点・特徴
Achromatic Doublet	1839	多数	Chester Moor Hall John Dollond	色収差を2色（赤青）で補正した最初期の写真用レンズ。ダゲレオタイプ黎明期に必須。
Doublet Landscape Lens	1839	多数	各メーカーの独自設計	初期の簡易ランドスケープレンズ。
Voigtländer Petzval Portrait Lens	1840	Voigtländer	Joseph Petzval	f/3.6の高速、当時比で圧倒的にシャープ。肖像写真に革命。
Ross Petzval Portrait Lens	1840年代	Ross	Andrew Ross	Petzvalの改良コピー、英国で普及。
Orthoskop	1840-1856	Voigtländer	Joseph Petzval	ランドスケープレンズとして、広い範囲での高い解像度と低歪曲を実現。
Orthographic	1857	Ross	Andrew Ross	Orthoskopの絞りをより小さくしたバージョン。
Sutton Triplet	1858	Ross	Thomas Sutton	建築を撮影できるため、歪曲と像面湾曲を補正。
Dallmeyer Portrait Lens	1860年代	Dallmeyer	J.H. Dallmeyer	Petzval系を改良。後群を再設計して球面収差をコントロール。
Triple Achromat	1860	Dallmeyer	J.H. Dallmeyer	Sutton Tripletからさらに改善。歪曲と像面湾曲を補正。
Ross Sutton Panoramic Lens	1861	Ross	Sutton	120°の超広角を実現、曲面プレートカメラと合わせて使用する
Harrison & Schnitzer Globe Lens	1862	Harrison & Schnitzer (NY)	Charles Harrison	超広角（約80°）の対称型レンズ。歪曲が非常に少ない革新的設計。
Pantoskop	1865	Emil Busch	Busch	初めてのAnastigmat（非点収差補正）レンズ。超広角（98-105°）。
Periskop	1865	Steinheil	Adolph Steinheil	2枚構成の対称型広角レンズ。安価で広角、風景向け。
Rapid Rectilinear / Aplanat	1866	Steinheil / Dallmeyer	J.H. Dallmeyer / Emil Busch	対称型デザインで歪曲、コマ収差、倍率色収差を自動補正。
Euryscop	1877	Voigtländer	Hans Zincke Sommer	Aplanatを改良、より大口径を実現。
Antiplanet	1881	Steinheil	Adolph Steinheil	非対称型設計で、周辺部の非点収差をAplanatより改善。
Concentric	1887	Ross	Heinrich Ludwig Hugo Schroder	対称型デザインにおいて、60°の広角でフレア、像面湾曲と非点収差を改善。
Anastigmat（1900からProtarと名称変更）	1890	Zeiss	Paul Rudolph	世界初の本格Anastigmat（非点収差補正）。画像品質を飛躍的に改善。
Telephotographic Lenses	1890年代	多数	各メーカーの独自設計	望遠鏡の設計を取り入れて、写真の望遠レンズを実現。
Cooke Triplet	1893	Taylor, Taylor, & Hobson	H. Dennis Taylor	3枚3群で主要収差を補正。後のあらゆる標準レンズの基礎。
Kollinear	1894	Voigtländer	K.Kaempfer H.Scheffler	対称型設計。広角で、前群は望遠レンズとして使用可能。
Stigmatic	1895	Dallmeyer	Hugh Lancelot Aldis	Antiplanetを改良、非点収差と球面収差を改善。
Orthostigmat	1895	Steinheil	Adolph Steinheil	像面歪曲、球面収差、色収差と非点収差を改善。
Dagor	1892	Goerz	Emil von Höegh	6枚2群。高解像・高コントラスト・広角でプロ写真家に普及。
Planar	1896	Zeiss	Paul Rudolph	大口径・高解像・高矯正の対称型。後の標準レンズの祖。
Unar	1899	Zeiss	Paul Rudolph	Planar より構成を簡略化し、コントラスト向上。
Heliar	1900	Voigtländer	Hans Harting	Tripletを改良し、各収差を補正しつつ、f/4.5の大口径を実現。
Homocentric	1902	Ross	G.Richmond	ダブルガウスタイプを改良。歪曲と球面収差を補正。非点収差と色収差の補正も良好。