このシリーズは映画の中で、被写体として登場しているカメラにまつわる話をします。
今回の映画は2006年エドワード・ズウィック監督の力作『ブラッド・ダイヤモンド』です。アフリカのダイヤモンドによる紛争、そしてそれを取材したジャーナリストを描いたサスペンスです。ジャーナリスト最愛のカメラはおそらくライカでしょう。映画の中で登場したのはもっとも長く販売した機種ライカM6です。
ブラッド・ダイヤモンド
紛争は常に利益が付きまといます。まして、ダイヤモンドのような莫大な利益の生み出せるものです。
1999年の西アフリカシエラレオネは内乱が続いていました。ダイヤモンドの密輸貿易はこうした背景でエスカレートしていました。誰しもダイヤモンドさえ手に入れば、他人の命なんてどうでもいいと、そんな歪んだ世界です。
ある日、漁師だったソロモン(ジャイモン・フンスー演じ)は反政府軍に強制連行されて、家族と離れてしまいます。ダイヤモンド発掘場で強制労働させられた彼は極上のピンクダイヤを発見したとき、政府軍による攻撃が始まります。逃れるないと知ったソロモンはピンクダイヤを埋めて隠したのち、政府軍に捕まってしまいます。
白人傭兵のアーチャー(レオナルド・ディカプリオ演じ)もダイヤモンドの密輸を手伝う一人です。政府軍に見つかって、逮捕された彼はソロモンに出会います。後者が極上のピンクダイヤ持っているという情報を手に入れた彼は決意しました。「必ずそれ手に入れ、そしてこの地獄から抜け出す」と。
しかし、ソロモンのダイヤモンドを狙っているのはアッチャーだけではありません。反政府軍も政府軍もそれを知って、動き出します。隠す場所を知っているソロモンがキーとなります。しかし、彼にはただ離れた家族を取り戻したいだけです。
そんな彼を助けたのはジャーナリストのマディー(ジェニファー・コネリー演じ)です。彼女はダイヤの密輸を調査するため、アーチャーと知り合っていたのです。ブラッド・ダイヤモンドが三人の運命を錯綜します。
マディーの手にはライカM6があります。この一連の事実を遠い安全なところに伝えるためには、カメラが必要なのです。
ライカM6
カメラにおいて、ライカは伝説です。
105年の歩みをしてきたこの会社は35mmカメラの始祖であり、20世紀の歴史もまたライカによって映像として記録されたと言っても過言ではありません。
1984年に発売されたライカM6はライカのカメラのなかでもっとも長く販売された機種です。2002年のM6TTLまで、実に18年の歳月を経て、ロングセールとなりました。
しかし、この時代ではすでに一眼レフが主流でした。電子制御シャッター、オートフォーカス、手ぶれ補正など、様々な新技術が日本のメーカーを中心に、どんどん開発されていました。ライカがだんだん時代遅れになって、厳しい経営が続いていた時期でした。
それでもM6は10万台も売れたのです。それは『ブラッド・ダイヤモンド』のなかのマディーのようなジャーナリストたちの支持があったからです。ライカカメラの特徴は
- 堅牢なボディ
堅牢性のため、独特なフィルムの入れ方があります。他のカメラで見られるような開閉式なバックドアではなく、底蓋をとって、フィルムを差し込む形です。ボディの両側が加工しにくい丸い形になっているのも、耐衝撃のためです。 - シンプルな操作系
絞り、シャッタースピード、ピント合わせ、撮影の基本要素を洗練された形でコントロールできます。 - 静かなシャッター
ミラーがなく、かつ布幕のため、シャッター音も当時の一眼レフよりずっと静かで、人の注意を引きつけにくいです。
ジャーナリストたちはプロです。ライカはその長い歴史で、「信頼できるカメラ」の名を築きあげたのです。
ライカM6はライカMシリーズの外観を踏襲しつつ、正面に赤くて丸いロゴを入れました。初期バージョンでは、社名の「Leitz」が入っていて、その後社名が「Leica」となって、ロゴも一緒に変わったのです。
ファインダーにも3種類の倍率があります。もっとも一般的なのは0.72で、28mm~135mmまでのフレームがあります。0.58は28mmのフレームが見やすく、135mmのフレームが省略されました。0.85は35mm~135mmのフレームを備えて、望遠レンズが使いやすいです。
M6はライカMシリーズで最初の機械シャッター機内測光のモデルです。シャター幕(後幕)中央に塗布してある白い丸から反射された光を元に、露出を判断して、ファインダーの中のLEDで表示させます。
M6の測光はそこそこの精度があって、生産量の多いことから価格も比較的に安い、今では実用に一番向いているライカフィルムカメラです。
経営の厳しい時期に生産したこともあって、M6の作りはMシリーズの兄弟と比べて若干劣ります。一部の個体の塗装にブツブツのような気泡が発生します。ISOの電子接点でも接触不良が起きたりします。
歴代のMにおいて、M6のバージョンが一番多いです。後期のTTL、チアニウムバージョン、様々な記念バージョンなど、語りきれないほどあります。詳しい話はまた今度にします。
フィルムの入れ方こちらのビデオを参考してください。
まとめ
平和の生活を送っている私たちにとって、アフリカの紛争はおとぎ話のようなものです。
『ブラッド・ダイヤモンド』はそんな私たちに刺激を与えてくれます。利益を前にして、人間性を捨てるかいなか、鬼と化すかいなか、アッチャーは心の中で葛藤したのでしょう。
しかし、葛藤すらしない人たちもいます。その悪を生々しく伝えてくれるのは写真です。それを捉えていくのがマディーのようなジャーナリストです。
ライカM6は彼らとともに数えきれないほどの過酷な環境をくぐり抜けてきてました。
そうだ、私も防湿庫にあるM6を取り出して、外に出かけてきます。
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