カラー写真技法伝−番外:モノクロ写真のカラーリング

この連載はカラー写真技法の小伝です。今日のデジタルカメラになるまで、どのようなカラー写真技法が存在し、どんなカラー写真が生み出されたのかを紹介します。

ここまで、カラー写真のたどった道を紹介してきました。今回は番外編で、モノクロ写真のカラーリング(着色)手法を探究していきます。

手塗りによるカラーリング

写真術の初期の頃はモノクロしかありませんが、カラー化の努力は非常に早い時期から開始されました。

1839年、ダゲレオタイプが発明されてまもなく、スイスのJohann Baptist Isenringという人物が手塗りによるカラーリングを試みました。アラビアガムに色素を混ぜ込み、ブラッシュを使って銀版プレートに塗り込みます。プレートに熱を与えると、ガムがプレートに密着できます。

1860年から、手塗りによるカラーリングが日本でかなりの人気を獲得しました。明治維新によって、従来の木版画が衰退し、写真への関心が高まっていました。かなりの版画職人が写真のカラーリングに従事するようになったそうです。その中で特に有名な人物を二人紹介します。

横山松三郎

いわゆる「写真油絵」を考案した人物です。写真元版ではなく、プリント、特に鶏卵紙にカラーリングをしていました。その技法は

印画紙の表面の感光乳剤の層を薄くはがし、裏から油絵具で着彩するというもので、当時の写真技術では色が再現できなかったため、その欠点を油絵で補うべく考えられたものだった。

https://yuagariart.com/uag/hokkaido18/

江戸城を最初に写真で撮った人で、「旧江戸城写真帖」を残しています。

旧江戸城写真帖(六十四枚) 文化遺産オンライン
「旧江戸城写真帖」の一枚

日下部金兵衛

日本で手塗りカラーリングを発展させたベアトの元でトレーニングを積んで、センスのある独自のカラーリング写真を作成していました。当時日下部たちが製作した「蒔絵アルバム」がお土産として人気を誇っていました。

nagoya castle
日下部金兵衛がカラーリングをした「名古屋城」

このビデオが日本の手塗りカラーリング写真を詳しく紹介しています。

How colorized photos helped introduce Japan to the world

カラープリント:Photochrom

1880年代、「オートクローム」がまだ生まれていないこの時代は、成熟したカラー写真のソリューションはありませんでした。Photochromはこの黎明期で誕生した、写真をカラー化するプリント手法の一つです。

発明者のHans Jakob Schmid はスイス出版会社Orell Füssli & Cie の社員でした。ヨーロッパとアメリカでそれぞれ特許を取得して、1900年代にかけて、Photochromはカラーハガキとともに、人々の生活を彩りました。

この手法は「リトグラフ」印刷技術の応用とも言えます。「リトラグラフ」は水と油が反発しあう特性を利用しています。石の表面にクレヨンで絵を描いたのち、エッチ処理をすることで書かれていない部分が侵食されす。書かれている部分が守られ、むきだし状態になります。これがのちにインクをつけ、紙をあてて、プリントしていきます。「カラーリトグラフ」の場合は、複数枚の石版を用意し、それぞれ違う色で紙にプリントすると、カラーの印刷物が出来上がります。

Wikiより:違う色の石版を使った「カラーリトグラフ」

Photochromも似たプロセスですが、絵描きの材料が違います。クレヨンではなく、瀝青を石に塗布します。一回万遍なく塗って、ネガを“コンタクトプリント”のような形で瀝青を露光させます。ネガの薄い=露光量の多い部分は固くなります。エッチ処理すると、固くない部分は洗い落とされ、リトグラフと似たようなむき出し状態の石版が出来上がります。

事前に手塗りカラーリングしたネガを使用して、カラーフィルタ越しで「色分け」した石版を複数枚作られます。「カラーリトグラフ」と同じように色の混ぜ合わせによって、カラー写真のプリントができます。

この手法によってプリントされた写真は実に美しく、一年で700万枚ものハガキがプリントされていたそうです。

Spectacular photochrom postcards capture France in vibrant color, 1890-1900  - Rare Historical Photos
Scanning Around With Gene: The Miracle of Photochrom | CreativePro Network

デジタル時代のカラーリング

デジタル時代に入ると、カラーリングはカラー写真を作り出す目的から、歴史的なモノクロ映像に色彩情報を与えることにシフトしました。

需要はまず映画産業から生まれました。1フレームずつカラーリングするという膨大な作業から開放したいです。1970年代から、モノクロ映画のカラーリングする試みがありました。当時、コンピューター性能の弱さと画像処理技術の未熟によって、デジタルカラーリングは難航していました。

コンピューター産業はムーアの法則に従って発展していき、1990年代に入ると、映画をデジタル技術でカラーリングする特許が出現しました。以降、さまざまなモノクロフィルムがカラー化されて、歴史的な映像がより如実に公衆の前に晒されることになります。

モノクロ写真をデジタル技術でカラーリングすることは映画フィルムほど難しくありませんが、正確な色を与えるのが非常に困難です。資料を調べ尽くし、時には現地を訪問してまで情報収集する必要があります。こちらのビデオに、現代のカラーリングアーティストが語ってくれました。

How obsessive artists colorize old photos

ディープラーニングを使った画像処理技術が近年発達してました。Photoshopでもモノクロ写真を簡単にカラーリングすることができます。自分で試してみたところ、その効果に驚きました。

終わりに

カラー写真が歩んできた歴史を見てきました。今回の番外編もその努力の一つと言えるでしょう。私たちは色彩を感じるという素晴らしい能力を与えられ、同時にそれを使って表現する欲望も人それぞれにあるかもしれません。色が絵画にとって重要な要素であると同じように、写真にもまた色によって表現力が一層豊かになります。

参考:

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