CP+2024に参加して、早くも1ヶ月立ちました。個人的にスチルカメラにおいて、一番感じたトレンドはグローバルシャッターの本格的に搭載です。今回はその話をしましょう。
カメラの歴史を振り返ると、機械部品がどんどんなくなっていくことがわかります。
- フィルム → デジタルセンサー
90年代から始まったデジタルカメラの普及で、フィルムカメラが退場する - 光学ファインダー(OVF)→ 電子ファインダー(EVF)
2010年代から始まったミラーレスの普及で、一眼レフの需要が年々低下していく
機械部品の砦として、最後に残ったのはメカニカルシャッターです。
一方、スマホのカメラではサイズやデザインの関係で、電子シャッターをずっと使っていましたので、今更メカニカルシャッターがなくなっても別に不思議ではないと思われるかもしれません。
しかし、今までの電子シャッターには大きな課題がありました。それは「ローリングシャッター現象」と呼ばれるものです。
ローリングシャッター現象
ローリングシャッター現象とは、デジタルカメラやビデオカメラで撮影した際に、動いている被写体やカメラ自体の動きによって、画像や映像が歪む現象のことです。この現象は、特にCMOSセンサーを使用しているカメラでよく見られます。CMOSセンサーは画像を一行ずつ順番に読み取るため、全ての行が同時にキャプチャされるわけではありません。この一行ずつ読み取るプロセスが原因で、撮影中に被写体やカメラが動くと、センサーが画像の各部分を異なるタイミングで捉えてしまい、結果として画像が歪んでしまいます。
例えば、高速で移動する車を横から撮影すると、車の形が伸びたり縮んだりして見えることがあります。また、カメラを素早く横に振りながら撮影すると、建物などの直線が曲がって見えることもあります。これらはすべてローリングシャッター現象の典型的な例です。
ローリングシャッター現象は、少なくとも最近のほとんどのスマホカメラで現れます。そのため、スマホで撮影するとき、より速いシャッタースピードを使う、または被写体の動きに合わせてカメラを動かさないようにするなどの工夫が必要です。
グローバルシャッター
先ほど「CMOSセンサーは画像を一行ずつ順番に読み取るため」ローリングシャッター現象がどうしても現れると説明しました。では一回で全部データを読み取ることができれば、問題解決ですよね?それを可能にしたのは「グローバルシャッター」です。
グローバルシャッターはカメラのセンサーが画像を一瞬で全て同時にキャプチャする方式です。グローバルシャッターを搭載したカメラは、特に高速で動く被写体を撮影する際や、カメラを動かしながらの撮影でその真価を発揮します。
グローバルシャッターの原理は、センサー上の全てのピクセルが光を同時に受け取り、その情報を一斉に読み出すことにあります。これにより、画像の各部分が異なるタイミングで捉えられることがなく、結果として動きのあるシーンでも歪みのないクリアな画像を得ることが可能になります。
しかし、グローバルシャッター技術の普及にはいくつかの難点があります。まず、グローバルシャッターを実現するための技術は複雑で、製造コストが高くなりがちです。これは、カメラの価格に反映され、消費者にとっては高価な選択肢となることがあります。また、グローバルシャッターを使用すると、センサーが受け取る光の量が制限されることがあるため、低照度下での性能がローリングシャッター方式に比べて劣る場合があります。さらに、グローバルシャッター技術は、センサーの熱を効率的に管理する必要があり、これが技術的な挑戦となることもあります。
これらの難点にもかかわらず、グローバルシャッター技術は特定のアプリケーションにおいて非常に価値が高く、映画製作や高速撮影、科学研究などの分野で重宝されています。つまり、今までグローバルシャッターがなかったわけではなく、まだ私たち一般消費者の手に届くにはコストなどの課題がありました。
Nikon Z9からSony α9III
Nikon Z9が2021年末に発売され、メカニカルシャッターをなくし、ローリング電子シャッターのみとなりました。かなり大胆な「暴挙」と思いつつも、ニコンらしさを感じました。まだグローバルシャッターではないですが、ローリングシャッター現象をかなり抑えたと数々のレビューでも検証されています。
2023年の11月末になって、Sony α9IIIが「世界初グローバルシャッター方式のフルサイズイメージセンサー搭載」と名乗り出して発売されました。それが今回のCP+2024年でも大きく宣伝されていました。いずれメカニカルシャッターがなくなることはわかっていましたが、目の当たりにすると、何か歴史を体験している気持ちになりました。
電子シャッター VS メカニカルシャッター
そもそもなぜ電子シャッターを採用する流れになっているのかを、メカニカルシャッターと比べながら説明したいと思います。
電子シャッター:
- メリット:
- 高速撮影: 非常に高速なシャッタースピードが可能で、動きの速い被写体も鮮明に捉えられる。
- 連射性能: メカニカルシャッターの10~100倍以上の連射性能が可能になる。
- 静音性: 物理的な動きがないため、撮影時の音がほとんどなく、静かな環境でも気兼ねなく使用できる。
- 耐久性: 機械的な部品が動かないため、摩耗や故障のリスクが低い。
- デメリット:
- ローリングシャッター現象: 動く被写体を撮影した時に歪みが生じることがある。
メカニカルシャッター:
- メリット:
- 画質: 全体的に均一な露光が可能で、画質が安定している。
- ローリングシャッター現象の回避: 物理的に全センサーが同時に露光されるため、ローリングシャッター現象が発生しない。
- デメリット:
- シャッターラグ: 物理的な動作によるわずかな遅延がある。
- 騒音と耐久性: シャッター音が大きく、機械的部分の摩耗が進むと故障のリスクが高まる。
電子シャッターは、その静音性、高速撮影能力、そして耐久性により、今後のカメラ技術のトレンドとなることが強く予想されます。メカニカルシャッターは機械部品のため、どうしても消耗品になります。今後性能の良い電子シャッターの量産ができると、コスト面でもかなり有利になります。
まとめ
カメラの小型化、電子化はカメラの発展においての本筋と言っていいでしょう。写真術が誕生した時、露出時間が長かったため、専用のシャッターすら必要ありませんでした(レンズキャップで露出の時間をコントールしていた)。その後、感光性能の向上でシャッターが登場し、一眼レフの時代においては最高シャッタースピードを競い合った時期もありました。それが電子シャッターの今後の普及で歴史となり、「気持ちいいシャッター音」もスピーカーから出力されることになります。
さようなら、メカニカルシャッター!
レンズの小型化を期待しています!
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