映画の中のカメラ①:『裏窓』とExakta VX

いうまでもないですが、映画はビデオカメラを使って撮影するものです。

でも、このシリーズのテーマはそれとは別で、映画の中に被写体として登場する写真用カメラになります。

写真術が誕生したのは1839年です。その後まもなく、1893年に映画を撮影するシステムが開発されました。われわれは映像の時代に入ったのです。

100年以上の歳月をへて、今では、カメラも映画も私たちの生活上欠かせないものとなりました。

今はスマホカメラで撮影する時代です。映画の中にもスマホカメラが登場しています。昔の映画だったら、フィルムカメラの中判、大判カメラの姿がありました。映画の中のカメラはある意味その時代の象徴とも捉えられます。

第一回目は1953年上映の『裏窓』(Rear Window)とそのなかで登場したExakta VXにまつわる話をします。

裏窓

この作品はスリラーという映画ジャンルを定着させたとていってもいいくらいの大監督、アルフレッド・ヒッチコックの代表作です。

カメラマンである主人公のジェフが足の怪我でアパートで休養中に起きた出来事です。

自由に動けないジェフは退屈のあまり、手元のカメラに望遠レンズをつけて、裏窓から向こうのアパートに住んでいる人たちの生活を覗き始めました。

他人の生活を観察し始めるジェフ

カメラのファインダーに映ったの生々しい人間ドラマです。美しいダンサーが踊りながら家事をしている姿もあれば、入居したばかりの新婚夫婦がカーテンを降ろしてキスし始めるシーンもあります。

ある日、いつも喧嘩してた夫婦の妻が突然消えて、夫のセールスマンがスーツケースを持って夜中に出かけました。長く観察していたジェフが殺人事件だと確信し、物語がここから始まります。

『裏窓』のワンカット、やはりグレース・ケリーはエレガントだな

Exakta VX

『裏窓』において、カメラは肝心な道具です。ジェフが手にしているのは1951年発売のExakta VXという、当時としてはまだ珍しい35mm一眼レフカメラです。

Exakta VX

1950年代のカメラマンは大判や中判カメラを使っているのが多く、小型の35mmカメラもレンジファインダーが主流でした。特に1954年ライツ社はライカM3の発売によって、レンジファイダーカメラの黄金の時代を築きました。その衝撃はあまりにも大きく、日本のカメラメーカーは徐々に一眼レフの製造にシフトしていったのです。

Exakta VXはまさにそのターニングポイントで誕生しました。Exaktaというのはブランド名で、ドイツのドレスドンに位置するイハゲー(Ihagee)社の一眼レフカメラに使ったブランドです。

同社は一眼レフの先駆けでもあって、1936年に発売したKine Exaktaは35mm一眼レフカメラの元祖です。

元祖一眼レフ:Kine Exakta
フォーカルプレーンシャッター、ウェイストレベルファインダー、レバーによるフィルム、シャッター、ミラーの同時巻き上げを備えて、ペンタプリズム以外一眼レフとしての基本機能は揃っている

レンジファインダーはレンズが望遠になればなるほど、フォーカスが難しいという難点があります。対して一眼レフはレンズからの結像をそのままみてフォーカスを行うので、望遠には強いです。

『裏窓』でジェフがつけたレンズはHeinz Kilfitt Fern-Kilar 400mm F5.6という超望遠レンズです。400mmにとって、F5.6のは今で見ても相当明るいです。その大きさからも納得できます。

Heinz Kilfitt Fern-Kilar 400mm F5.6

Exakta VXの主な特徴こちらです。

  • マウント:バヨネット式Exaktaマウント
    Ihageeは自社でレンズを生産しないため、他社からたくさんのレンズが供給されました。
  • スプリット式フォーカススクリーン(交換可能)
  • 横走行布幕フォーカルプレーンシャッター
  • シャッタースピード:
    高速側1/25〜1/1000 + T, B
    低速側1/5〜1/12
  • チャージレバーは左に位置し、左手で巻き上げる
  • ファインダー:
    交換可能なアイレベルファインダー(ペンタプリズム)とウェイストレベルファイダー
  • ミラーはレバーで巻き上げないと上がらない(ハッセルブラッドと同じ)
  • 重さ:833g

このカメラは大きく分けて4つのバージョンが存在しています。マイナーチェンジは2つです。日本語版Wikiの情報を載せておきます。(Wiki

  • 初期型 – 輸出向けモデルはフロントプレートの刻印が「Exacta VX」になっている。裏蓋が取り外せる。
  • ダブルシャッター付き – 戦争で体が不自由になった人向けのモデル。フロント下部右側にシャッターボタンが追加されている。
  • 第1の改良型 – 長焦点レンズ用に外爪バヨネットが追加された。
  • 可変式フラッシュシンクロ付き – フラッシュシンクロ接点が一つしかない。またシンクロタイミングの調整が可能である。
  • 第2の改良型 – シンクロ接点がクロムメッキされたPCシンクロターミナルになった。
  • 第3の改良型 – フロントプレートの刻印が、当初は「Exakta Varex」だったのが、時が経つにつれて「Exakta Varex VX」または「Exacta VX」に変わった。Fシンクロの為の接点が追加された。作動音の小さくなスローシャッター機構が取り入れられ、ペンタプリズムカバーの二面が革仕上げになった。

バージョンごとの発売期間と対応しているシリアル番号を下のテーブルにまとめました。

年代シリアル番号
初期バージョン1951-53691000-734000
第1改良型1953-55732000-772000
第2改良型1955-56772000-820000
第3改良型1956不明

操作方法など詳しく知りたい方はこちらのビデオ(英語)を参考してください。

まとめ

『裏窓』は私の大好きな映画の中の一つです。

他人の生活を覗くという悪趣味みたいなものはモラル違反でありながら、抑えきれない人間心理でもあります。それは芸能人の私生活なり、電車に乗っている人のスマホ画面なり、おそらく誰でも一度は目を向けたことはあると思います。

カメラやレンズの後ろに潜んでいる主人公ジェフはまさにその代表でしょう。しかし、それは必ずしも悪いことではなく、この世界に興味を持つ、もっというと、生活に愛着がある象徴でもあります。

Exakta VXを手にとって、大切な瞬間にシャッターを切ります。あなたのグレースケリーに出会えることをお祈りします。

参考リンク:

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