映画の中のカメラ③:『メメント』とポラロイド690

このシリーズは映画の中で、被写体として登場しているカメラにまつわる話をします。

フィルムカメラの最大の不便はその場で撮影結果を確認できないことです。それを克服するため開発されたのがポラロイドインスタントカメラです。

2000年に公開された『メメント』には、ポラロイドが重要な役割をはたします。一枚一枚のインスタント写真がミステリーをつづって、思わぬ展開を見せます。

ポラロイド690を使う主人公

今の時代で最も偉大な監督の一人、クリストファー・ノーランのこの作品は通常の時間軸で物語を進めるのではなく、逆に遡っていきます。頭を使うミステリー映画だからこそ、見終わって理解したときの爽快感も並の映画と比べられません。

メメント

もし記憶が10分しか保持できなかったら、どうなるのか?

主人公のレナードにある日こんな不幸が訪れました。何者かが彼の家に侵入して、彼の妻を強姦しました。

レナードは一人の犯人を銃殺したが、もう一人の犯人に頭を打たれて、気絶してしまいました。目が覚めると、自分は10分の記憶しか保てないことに気づきます。

復讐の炎が彼の中に燃えています。なんとしても犯人を見つけ出したく、彼は調査し始めます。ノート、刺青、インスタント写真、使えるものすべて使って、わかったものを記録していきます。

インスタント写真を見せるレナード

調査の最中、レナードはバーの女店員ナタリアに出会います。彼女は何か情報を持っているようです。昔からの友人だと自称するテディーはレナードに接近して、何か企みがあるように見えます。

ナタリアからの誘惑

いったい誰が信用できるのか、罠にでもかかっているのかと疑心暗鬼しているなか、ポラロイドで撮った一枚の写真が思わぬ展開に導きます。

ポラロイド690

一世を風靡したポラロイド、インスタント写真の代名詞でもあったポラロイド。映画公開の2000年あたりはその最後の輝きであって、墜落の始まりでもあります。翌年の2001に倒産してしまうなんて、誰が想像できたでしょう。

1937年ポラロイドはあのトマス・エジソンと肩を並べるほどの天才発明家エドウィン・ランドによって創立されました。名前の由来はランドが開発した偏光素材で、会社当時もこの素材を利用してサングラスを生産していました。

「なんで撮った写真はその場で見えないの」と娘さんの一言をきっかけに、ランドはインスタントカメラの開発に飛び込みます。1948年に世界初のインスタントカメラ、ポラロイド・ランド・カメラ(Model 95)が発売されました。一枚の写真を撮るのに4分くらいかかります。

Polaroid Model 95

初期のポラロイドは二本のロールフィルムをロードする必要がありました。1960年の100シリーズから、今ではおなじみのパックフィルムが使われるようになって、自動露出もできるようになりました。

Polaroid Model 100

技術的な進歩を重ねて、ポラロイドがどんどん使いやすく、写真を映るスピードも高くなっていきました。1996年のフォトキナで600シリーズの最終形として、ポラロイド690が発表され、一枚の写真を完成させるための時間は1分30秒以下に短縮しました。

折り畳んだときのポラロイド690
(photo by mapcamera)
開いたときのポラロイド690
(photo by mapcamera)

ポラロイド690はバッテリーが内蔵されていません。フィルムパックごとに交換する仕組みです。幸い、再編そして買収されたポラロイドは復活して、フィルムパックの生産をし続けています。

690のオートフォーカス機能は素早くかつ正確です。今では珍しいソナーを採用したことで、普通のコントラスト検出法ではピント合わせの難しい壁やローコントラストの場所でも問題なくAFできます。

今の富士フィルムInstaxと違って、このカメラは一眼レフなのです。ちょっと不思議かもしれませんが、折り畳み式カメラなのに、ミラーの絶妙な設計で実現しています。135よりはるかに大きいサイズのフィルムであるため、ファインダーがとても見やすく、心地いいです。

ポラロイドSLRのミラーの仕組み(参考

他の特徴としては

  • 最短撮影距離:26cm
  • 焦点距離116mm(35mm換算で44mm)、F8
  • 折り畳み時のサイズ:24.5 x 10.5 x 2.5cm
  • 開いたときのサイズ:17 x 10.5 x 13cm
  • 重さ:793g

ついでですが、ポラロイド690は日本で製造されていました。好評だった680が1987年に製造中止になったのですが、日本からの熱い呼びかけによって、後継機である690が誕生したのです。

690の操作形は680と同じです。詳しく知りたい方はこちらの動画(英語)を見てください。

まとめ

『メメント』のなかで、主人公のレナードがポラロイド690を自分の記憶の外部装置として使っていました。これらのインスタント写真は本当に自分の記憶と同じように信じれるのか、本当の犯人に導いてくれるのでしょうか。

フラッシュの瞬きのあと、カメラから徐々に吐き出す一枚の印画紙に色が浮き上がってきます。それはアナログ時代の魔法です。

ビンテージブームの中、懐かしいポラロイドを手にとって、友たちと一緒に、記憶が定着される瞬間を楽しんでみませんか。

参考リンク

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