ライカM9-Pの世界

カメラ好きな人にとって、ライカは一つの頂点です。

それにまつわる伝説と物語は「ライカM」というブランドイメージを築き上げ、高級カメラとして認知されています。確かにお値段は高いですが、消してブランド品ではありません。むしろ写真創作の原点に立ち戻れる洗練された道具だと思います。

ライカM9-P

ライカM9は2009年発売されたデジタルレンジファインダーカメラです。世界で初めてのフルサイズミラーレスカメラと言われたりもしますが、「ライカはライカ」と個人的には思います。

購入したのは2015年で、もちろん中古品です。どうしても赤いマークが嫌でM9-Pにしました。今から思い出すと、買ったきっかけは執念によるものでした。ズミルックス50mm F1.4 ASPHを手に入れて、ソニーα7につけていたのですが、どうしても周辺の画質落ちが気になります。センサーのマイクロレンズの最適化を考えると、Mボディにするしかないと思い、M9-Pに手を出しました。

このカメラにはたくさんの思い出があります。2018年のヨーロッパ旅行で、ライカ本社が位置するウェツラー(Wetzlar)でなくしてしまうまで、3年間の歳月を共にしました。この記事はレビューではなく、懐かしい友との思い出話です。

CCDの色合いが確かに違う

ISO160 エルマリット28mm F2.8

CCDは低感度のとき、CMOSより純度の高い色合いが実現できます。それは本当かどうかの議論はあまり意味ありません。何せ2009年のカメラだから、理屈で正しくても比較しようがないです。

でもM9から出た色は確かに違います。CMOSに切り替わったM type240やM10と比べても、明らかに違います。適切な光(後述)の状況下では潤いのある、非常に自然なトーンが得られます。逆にそうじゃない場合は、昔のコンデジと同じような非常につまらない色合いになります。

適切な光とはなんでしょう?比較的低いコントラスト、グラデーションの感じる斜めの光、複雑すぎない室内の点光源などがあります。ライカM9はシーンを選ぶカメラです。CCDのダイナミックレンジが狭いせいか、今時のCMOSセンサーのフルサイズカメラのような使い勝手はないです。

ISO160 ズミルックス50mm F1.4 ASPH

それはある意味フィルムと同じです。光の温度、反射状況、コントラストをよく理解した上で初めていい写真が撮れます。ライカM9はセンサーを積んだフィルムカメラなのです。

ISO640 ズミルックス50mm F1.4 ASPH

二重像は楽しい

レンジファインダーのフォーカスは二重像で行います。ライカカメラの心臓はここにあると思います。

M9のでファインダー倍率が低めの0.68です。フィルムカメラのMボディの0.72とそこまで変わりません。私の感覚では、50mmだとF2.0からピント合わせが精確に行います。

ISO160 ズミルックス50mm F1.4 ASPH

二重像のマニュアルフォーカス方式は一番楽しいです。レンズタップに指をおいて、フォーカスリングを回しながら、二重像が重なっていくプロセスは何かに「焦点を与える」過程でもあります。文字通りで、何を中心に、何をテーマとして表現したいかが具現化します。

マニュアルフォーカスなので、どうしてもピント外れたりする場合があります。オートフォーカスに頼ってきた自分も最初は慣れませんでした。F1.4のときはある程度のピント外れを容認しつつ、あとは練習で上達していきます。

ISO160 ズミルックス50mm F1.4 ASPH

レンジファインダーの楽しさは絵作りよりストーリーだと思います。一眼レフのようにレンズが写っている世界を見るのではなく、どちらかというとメガネをかけている状態に近いです。キチキチに構図や被写界深度を決めて、完璧な一枚の絵として完成するより、観測している世界に何が起きているか、ストーリー性重視です。

カメラは美しくなければならない

Photo from DPReview

なぜでしょうか、ライカMを持っていると、写真を撮りたくなります。

それはカメラそのものが美しいからだと思います。カッコいい車に乗りたいと同じです。美しいカメラが手にあると、極めて日常的なシーンからも、おもしろいフレームを見つけようとします。

ISO1600 ズミルックス50mm F1.4 ASPH

ライカM9-pは美しいです。クラシックとモダーンのデザインを見事に融合しているカメラはライカMしかないと思います。洗練された操作系はシャッタースピードダイヤル、フレーム切り替えレバーと背面の数個のボタンによって構成されています。フィルム時代から受け継がれている「Simple is the best」精神の現れです。繰り返しですが、ライカM9は写真の原点に立ち戻れるカメラです。

ライカユーザーのあまりの固執か、フィルム時代の底蓋の設計も保留されていて、ただ入れるものがSDカードとバッテリーになりました。

光学のフレーム(ファインダーの横の窓)を採用したのもM9が最後です。M type240からはフレームがLEDとなって、フレーム窓が赤マークになったり、Pの場合はネジになったりします。私はこのフレーム窓が好きです。

フレーム窓がネジになった

ほかのカメラと比較すると、ライカカメラの作りが明らかに上質です。M9も例外ではありません。肩を並べていれば、明らかに違うオーラが出されていることがわかります。

ライカM9-Pを持ち出したとき、ほとどん目立ちません。声をかけてくれる人はだいたいライカユーザーです。知る人ぞ知るという意味で、私もライカを使っている人を見かけたら、「いいもの持っているな」と心のどこかで呟いたりします。それは控えめの美しさで、ワビとサビの世界に入ったと言えます。

期待してはいけないこと

ISO160 ズミルックス50mm F1.4 ASPH

シャッター音です。個人的に一番嫌いなのはシャッターをクリックした後の「シャー」のチャージ音です。M type240からはやっとなくなりましたが、この音はライカらしくないです。

悪名高きCCD剥離問題は周知の通りです。個人的なエピソードとして、ヨーロッパに行く前に、私のM9-Pに剥離の症状が発生したので、ライカ京都に持っていきました。交換の期間がすぎたため、あきらめようと思ったのですが、「前の所有者が(剥離が解決される前のCCD)交換を行ったばかりなので、短期間で剥離が発生してしまって、申し訳ないから、無料で交換します」との返事がきました。有頂天になって、ヨーロッパから帰ったら、交換に出そうと計画したのですが…

ISO500 ツァイス35mm F1.4 ZM

シャッターのタイムラグが今ときのカメラよりずっと長いです。iPhoneと比較したことがあったが、M9は明らかに遅いです。フィルム時代のライカのアドバンテージが一つなくなっています。(M9が悪化しただけ)

他にはライブビューなし、モニター解像度低い、SDカード書き込み遅いなどなど、今のデジタルカメラに慣れている人は、ここら辺は期待してはいけません。

いつかはもう一度手に入れたい

ISO160 ズミルックス50mm F1.4 ASPH

ライカM9発売の2009年から、ちょうど10年が経ちました。私のM9-Pがヨーロッパで失くしてからも二年近く経ちました。しかし、今でも自分に問い続けています。

もう一度手に入れるか?

私の答えはYesです。M9-Pでなくいいです。M9でも、M-Eでも、モノクロのMMでも、CCDのユニーク性が私を魅了し続けているに違いありません。

ISO160 ツァイス35mm F1.4 ZM

ライカM9はデジタルのセンサーをつけたフィルムカメラです。その後のライカMはデジタルカメラに近づいてきて、レンジファインダーである必要性も低くなります。最近注力しているミラーレスのSLやCを見て、Mの存在はいつかなくなるかもしれません。

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