カラー写真技法伝−後編:デジタル(2000〜)

この連載はカラー写真技法の小伝です。今日のデジタルカメラになるまで、どのようなカラー写真技法が存在し、どんなカラー写真が生み出されたのかを紹介します。

今回はデジタル時代、写真といえば、カラーであることが当たり前のようになっている裏側を探ります。

ベイヤーフィルター

  • 年代:1976
  • 人物:ブライス・ベイヤー
  • キーワード:イメージセンサー、カラーフィルター

最初のデジタルカメラは1975年、コダックより発明されました。モノクロで、明暗しか記録できず、ストレージに磁気テープを使っていました。

同年、同じくコダックに務めていたブライス・ベイヤーがカラー写真撮影のための特許、「ベイヤーフィルター」を出願していました。このベイヤーフィルターを装着したイメージセンサーが今のスマホカメラにいたるほとんどのデジタルカメラの標準形です。

ベイヤーフィルターのモザイク模様
グレーの層がイメージセンサー(CCDかCMOS)、セルが撮像素子とその上のフィルターに対応する。

ベイヤーフィルターは至ってシンプルです。モザイク模様に、赤、青それぞれ一つ、緑2つのフィルターによって構成されています。このパターンをイメージセンサーのそれぞれの撮像素子の上に乗っけて、R B Gの単色光のみ通過することを許します(厳密には違って、下のレスポンシブカーブを見てください)。

ニコンD700のスペクトルレスポンシブカーブ。青フィルターが青のみ通過するではなく、赤〜赤外の部分まで反応している。

このベイヤーフィルター越しに記録された画像はそれぞれの画素に単色の情報しかないため、後処理で、隣接の画素の情報を使って補うことによって、まともなカラー写真が生成されます。この処理を「デモザイク処理」と呼ばれます。この処理能力の高さもデジタルカラー写真の要の一つです。

デジタルカメラの宣伝時、必ずと言っていいほど登場するのが「処理エンジン」とか「処理チップ」です。キャノンの「DIGIC」、ソニーの「BIONZ」とかがそうです。デジタルカラー写真の進化が凄まじいのも「ムーアの法則」に従って進化する処理能力の向上による部分が大きいでしょう。

The Digital Photography Evolution
デジタル写真の進化(9gag.comより)

発明者のベイヤーは2009年、英国王立写真協会からProgess Medalを授与されました(写真家の細江英公も同協会から特別勲章を授与されたことがある)。2012年83歳で逝去されました。

余談ですが、前編で「オートクローム」を紹介した時、ベイヤーフィルターに近いと言っていました。オートクロームのフィルタはベイヤーフィルターのように均一分布になれず、統計学的に同じ色のフィルターの塊が現れます。発想自体はシンプルですが、相性がいいのはデジタルセンサーです。

ベイヤーフィルターの改良型

ベイヤーフィルターは後処理による「合成」が必要のため、「偽色」「解像度不足」の問題があります。

キヤノン:キヤノンCMOSセンサーの世界
偽色

それらを解消するため、様々な新しいパターンのフィルターが提案されていました。富士フィルムの「X-Trans」や最近Huaweiの「RYYB構成」などがあります。が、いずれもベイヤーフィルターを取って代わることはありませんでした。

様々なベイヤーフィルター改良型

Foven X3

  • 年代:2002
  • 会社:Foveon, Sigma
  • キーワード:3層センサー

カラーフィルムは三原色にそれぞれ感光できる層を縦で重ねる構造をとっています。同じ発想を踏襲して、アメリカのFoveon社によって考案されたのはFoven X3センサーです。

縦方向にB, G, Rの三層を重ねて、カラーフィルムと同じ構造になっている

Foven X3センサーのメリットは「偽色がない」ことと、「解像力が高い」の2点です。ベイヤーフィルターを用いたセンサーと違って、周辺画素の情報を使わないので、偽色は原理的に発生しません。さらに、一つの画素がRGBの情報を全部持っているので、解像力が高く、ベイヤー式のようなモヤッとした不自然さはありません。

Sigma DP1 Merrill(Fovenセンサー採用)と他のカメラ(ベイヤー式)の比較:偽色がなく、解像力が高い

2002年、初めてFoven X3センサーを搭載したSigma SD9が発売されて、話題を呼んでいました。その後、Foveon社が2009年にSigmaによって買収されて、Foven X3の技術もSigmaが継承することとなります。2016年発売のsd Quattro Hが生産終了して以来、Foven X3センサー搭載のカメラはなかなか出てきません。フルサイズFovenセンサーの噂や社長インタビューでの言及など、話題性と期待感は高いものの、Fovenセンサーの未来はまだ闇に包まれていると感じます。

そうなっているのはFovenセンサーに決定的な弱点があるからです。ベイヤー式と比べて、高感度性能が悪く、正確な色再現が難しく、かつ読み書きが遅く、発熱、電力消耗が激しいことによって、ビデオ記録ができません。

問題はこの3層の構造にあって、Fovenセンサーの良さが逆手に取られてしまいました。この問題の解消が相当難しいらしく、しかもベイヤー式の偽色がアルゴリズムの改良によってかなり改善され、高画素化も猛進している今、Fovenセンサーの存在意義がどんどん薄くなっています。

3-CCD

光をプリズムを使って分光し、三元色の光をそれぞれのイメージセンサーで感光させたのち、合成します。マックスウェルの実験を思い出すこの方式が「3-CCD」と呼ばれています。

光を分解して、それぞれのセンサーで感光させる

偽色がなく、解像力が高いのはFoven X3センサーと同じです。ただ、非常に複雑な機構が必要で、高価であることもわかります。この方式を採用したカメラは少なく、調べた限りでは「Minolta RD-175」「Agfa ActionCam」しかないようです。

まとめ

フィルム以前、そしてフィルム時代と違って、デジタルカラー写真の技術はデジタルカメラの誕生の時から正解になっていました。このシリーズを書いて非常に不思議に思ったところでもあります。それは運より、カラー写真技法の積み重ねによるものだと思います。半導体センサーに対する理解プラス色再現に対する理解がベイヤーフィルターの早々たる誕生を促したでしょう。

次回は番外編で、モノクロ写真のカラーリング手法を見ていきましょう。

参考

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