カラー写真技法伝−中編:フィルム(1930〜2000)

この連載はカラー写真技法の小伝です。今日のデジタルカメラになるまで、どのようなカラー写真技法が存在し、どんなカラー写真が生み出されたのかを紹介します。

今回はフィルム時代、あの懐かしい歳月を今一度蘇らせます。

Kodachrome誕生

  • 年代:1935
  • 人物:Leopold Mannes、 Leopold Godowsky
  • キーワード:カラーカプラー

オートクロームまでのカラー写真は主に加法方式で、三原色のフィルターをそれぞれ通過した光で露光させる必要がありました。

一方、減法方式の試みも前回で紹介をしていましたが、1930年代までは様々の問題を抱えて、市場に出回ることは少ないでした。

そのうち、主な問題は光の拡散による解像度落ちです。当時の減法方式は3枚のガラス、もしくはフィルムをスタックして、それぞれある原色に感光させて、3枚のネガを得ることを目的としていました。(下の図がその一例で、「Hiblock」と呼ばれる減法方式感光システムです)

支持体を2回通過しないといけないことによって、どうしても光が乱反射してしまい、解像度が非常悪かったようです。

この問題を解消すべく、同じ支持体に特定の原色に感光できる乳剤を3層塗布することを考えられます。ただ、そうすると、分離してカラーイメージを作ることが難しくなってしまいます。

そこで、「カラーカプラー」と呼ばれている、色素を形成できる「中間物」が発明されました。現像の途中、カプラーは現像の産物と反応をおこし、それぞれの乳剤層にイエロー、マゼンタ、シアンの染料に変化します。1912年、ドイツ人Rudolph Fischerがカプラーの特許を取得しました。彼はカプラーを乳剤層に混ぜて、現像時、ネガの濃淡に従って、染料を形成することを期待していました。しかし、カプラーは指定された乳剤層に止まらず、他の層に分散してしまうため、理論通りには行きませんでした。

Fischerのカプラーを利用して、ようやく実用化に持ち込めたのがKodachromeです。音楽家だったLeopold MannesとLeopold Godowskyはカラー写真に興味を持ち、趣味として研究をしていました。コダックからのサポートを得て、数多くの実験の失敗を経て、1935年にフィルムKodachromeの開発成功に漕ぎ着けたのです。その名前「Kodachrome」はその20年も前、コダックが初期に開発していた二色カラー写真システムから継承したものです。

Kodachromeはリバーサルフィルムの一種で、反転現像によって、ポジティブな像が得られます。カプラーを乳剤に内装せず、現像時に注入することで、カプラーの分散問題を解消したのです。その結果、現像、染色、漂白の繰り返しによって、処理プロセスが28ステップに及び、複雑極まりないものとなっていました。自分で現像することがほぼ不可能で、コダックのラボに依頼するしかありません。

Kodachromeの現像プロセスK-14 (from 1975)

発売当時のKodachromeはiso 10の、非常に低速のフィルムでした。改良を重ねて、64、200と感度を上げてきました。また、のちに発売されたカプラー内装式のカラーフィルムより、銀塩のみのKodachromeは解像度が高いと言われています。

2009年まで発売されたKodachromeは数々の名作を生み出してきました。アメリカNational Geographic 誌における写真家Steve McCurryAfghan Girl は最も有名な写真の一つです。私もこの写真に魅了されて、リバーサルフィルムを始めたのです。

お金持ちの趣味だったAutochromeと違って、Kodachromeはマーケットに普及できた初めてのカラー写真技法です。当時一本$3.5(今の値段に換算すると$54)で、ハイアマチュアの手にも届く値段になっていました。

カラーフィルムの大衆化

  • 年代:1972
  • 会社:Kodak, Fujifilm, Konica, Agfa
  • キーワード:C-41

Kodachromeの複雑な現像処理から脱却すべく、1936年ドイツAgfa社がカプラー内装式のカラーフィルム開発に成功しました。複数回の染色は必要なくなり、シンプルな現像処理が可能となりました。それ以降、Kodachrome以外のカラーフィルムはこのカプラー内装式を採用していたが、オリジナルのAgfaのやり方ではなく、コダックの改良バージョンでした。

より一般大衆に普及させるため、1942年、プリントを想定したカラーネガ「Kodakcolor」が発売されました。iso 25でした。現像とプリント処理がシンプルになったおかげて、値段がKodachromeより下がりました。

初代Kodakcolor 1942

しかし、モノクロフィルムと比べて、依然高いことと、感度の低さから室内での使用が難しいなどの欠点から、まだまだ大衆に浸透できるレベルまで技術が成熟しきれませんでした。

1970年代まで、緩やかなカーブを描きながら、改良を重ねたカラーネガフィルムがだんだん主流となってきました。そして、1972年、コダックによるC-41現像プロセスの公開と共に、一種の業界基準が出来上がりました。富士フィルムのCN-16、コニカのCNK-4、AgfaのAP-70と互換性があって、さらに、街中のDPEショップにこの「標準プロセス」対応の現像機を設置することで、インフラのように大衆の写真撮影をサポートする体制ができたのです。

デジタル写真が普及するまで、実に数百種類(詳しく)のカラーネガフィルムが発売されてきました。違う感度、色温度、粒子の細かさなど、様々な用途に合わせたフィルムが大衆の手に届けられました。

C-41互換のカラーネガフィルムは標準的な構造を持っています。Wikipediaではこう説明されています。

それぞれの階層は、可視光線の一定の色彩に対してのみ、感度があるものである。古典的な説明で言えば、3種類の感光乳剤がある、1つは赤色感度のもの、もう1つは、緑色感度のもの、そして最後に青色感度のものである。もっとも上部の階層は青色感度である。青色層の下には黄色いフィルターがかかっており、染料あるいはコロイド状の銀が構成している。銀ベースの写真乳剤は、すべて、それがどの色に感度があるものであろうと、青色の光に対するなんらかの感度をもっている。このフィルターは、青色の光を取り除く働きをもっており、その下にある階層の感光を防いでいる。青色感度の階層と黄色いフィルターの下には、緑色と赤色の階層がある。

Wiki: C-41現像
Diagram of FujiColor Supreria C-41 film
FujiColor Superiaカラーネガフィルムの構造

こうして、現像プロセスで規格がある程度統一されたカラーネガによって、フィルム全盛期を迎えられました。リバーサルより安く、ラチチュードが広く、プリントで補正が効くなどの利点から、1970年代〜2000年代まで、フィルムといえばカラーネガであるほど、一般的に認知されていました。デジタルがメインの今でも、カラーネガの支持層が厚く、デジタルと違う「ユニークな色」と人気が衰えません。そのいい例として、VSCOのようなフィルム発色をデジタルフィルターで作るアプリの存在でしょう。

インスタントフィルム

  • 年代:1963
  • 会社:ポラロイド
  • キーワード:色素拡散転写法

現像を待つ時間を無くしたい、撮った写真をその場でみれるようにしたいというニーズはインスタントフィルムの誕生に拍車をかけました。カラーネガ技術が成熟してきた1963年、ポラロイドによるカラーインスタントフィルムが発売されました。

「色素拡散転写法」と呼ばれる手法で、現像とプリントを同時に行うことを可能にしました。カプラーを使わず、現像剤と色素を混ぜた層がフィルムに内蔵させます。感光するネガと転写に使うポジペーパー、そして現像を促す薬剤がセットです。パックフィルムを例に、露光、現像、プリントのプロセスは下の図で解説します。

感光に使うネガフィルムの構造。普通ののカラーネガと違って、カプラーではなく、色素のレイヤーが作られている。
赤の光に感光した場合、赤の銀塩層が反応し、潜像が形成される。
矢印方向にフィルムを引き出すと、現像促進剤を挟んで、転写用のポジペーパーとネガフィルムが重なる。
現像促進剤がネガに浸透し、色素レイヤーにある現像剤を活性化させる。赤に感光した銀塩層に現像が進み、シアン色素がそこで止まる。感光されなかった緑と青の下にある色素はポジペーパーに転写され、混色で赤色を形成する。

引出されたポジペーパーからネガフィルムを剥がすと、プリント済みの写真が得られます。

Polaroid Type 600, ISO 640, from Wikipedia

一世を風靡したポラロイドのインスタントフィルムですが、デジタル時代の足音が近づくと、売りだった利便性が陰り、2001年ポラロイドが倒産してしまいました。

コダックや富士フィルムからもインスタントフィルムが発売されていました。デジタル時代の今では富士フィルムのInstaxとポラロイドがなお健闘を続けていて、特に若い人を中心に、デジタルとは一線を画する映像方式として、人気を誇っています。

まとめ

デジタル全盛であるとはいえ、いまだにカラーフィルムのファンが多く、特に135カラーネガは若い人の間でかなり人気です。ついでに、私が使っていたカラーフィルムの紹介をご一読ください。フィルム選びの参考になれたら幸いです。

参考

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