このシリーズはフィルムとデジタルそれぞれの強みと弱みを把握した上、適材適所に使い分けることを目的としています。
最近のミラーレスブームによって、クラシックレンズをアダプター経由で使用するケースがかなり増えました。
フィルムカメラ時代に製造されたレンズたちは独特な魅力があります。
ペンタックスのFA Limited三姉妹、ライカのズミクロン35mm F2八枚と七枚、コンタックスのホロゴン16mm F8のような伝説となったレンズもあります。
しかし、フィルム時代のレンズ設計はフィルムの特性に合わせったもので、デジタルカメラと必ずしも相性がよくないです。
今回はその原因を分析したうえ、クラシックレンズの楽しみ方を解説します。
センサーに対応するレンズ設計
デジタルカメラの感光方式が銀塩からセンサーに変わったことで、レンズ設計にはいろんな新しい要求が出てきました。
テレセントリック光学系
シリーズ一回目で話した垂直入射がその一つです。
フィルムは入射光の角度の違いによって、感光効率が著しく変わることはないから、レンズ設計するとき、斜め入射してもよかったです。
しかし、センサーの場合は受光するフォトダイオードの前にマイクロレンズ、カラーフィルター、ローパスフィルター、赤外線フィルターなどのセンサー光学系が配置されています。
斜め入射する場合は、受光部のフォトダイオードに全ての光が導かれなくて、光量のロスが発生します。さらに、光は量子性があるから、隣の画素にクロストークとして漏れこんでしまいます。
結果として、ひどい周辺光量落ちとカラーシェーディング(色ズレ)を引き起こします。
デジタルカメラセンサーのこれらの問題を回避するため、出来るだけ垂直入射できる、専門用語は「テレセントリック性」を備えたレンズ設計が求めらます。
移動制限
センサー光学系による問題はまだあります。
その一つがフィルムより厚いことです。
マイクロレンズやらカラーフィルターやらがあるから、その分当然厚みが増えます。
通常、ズームやフォーカスするときレンズが前後に移動しますから、レンズを設計するとき、センサーに傷つかないように、移動距離の制限がかかってしまいます。
後玉のコーティング
もう一つの問題は反射です。
理想はセンサー光学系の光量通過率が100%ですが、現実にそうはいきません。
一部の光が反射され、レンズに戻ってしまい、ゴーストやフレアが発生します。そうならないよう、レンズの後玉に適切なコーティングをかけることが一層重要になります。
解像度の向上
ここまで、デジタル対応のため、レンズ設計が随分大変になった印象がありますが、楽になった部分もあります。
デジタル写真は後工程でレンズの歪曲収差、周辺光量落ちと倍率色収差をある程度解消できます。これによって、球面収差や軸上色収差などの改善に主眼をおくことができるようになりました。
結果として、解像度の向上につながります。
ライカQのレンズがその典型です。コンパクトに収めると同時に、高い解像度を実現しています。が、歪曲はかなりひどいです。
クラシックレンズの楽しみ方
下の二点をまずわかってほしいです。
- 伝説を信じすぎない
- 数値は参考程度に
この二点はまさにコインの両面です。
クラシックレンズのなかに、伝説となったレンズがたくさんあります。これらのレンズは憧れの存在で、実にすばらしいものです。
しかし、上でも言ったように、フィルム時代に誕生したレンズだから、デジタルカメラに合わせた設計がされていないです。
せっかく伝説のレンズを入手したのに、持っていたレンズより解像度が低かったり、色収差がひどかったり、がっかりすることになるでしょう。
伝説を信じすぎると、期待に答えられなかったときの失望感も大きいです。
真逆のパターンは数値しか見ないことです。
クラシックレンズの醍醐味はやはりそれぞれの個性にあります。それは色調なり、ボケなり、様々あって、スペック表にある数値では表せないものばかりです。
数値だけみると、クラシックレンズのおもしろさを体験できないことになります。
なので、クラシックレンズを楽しめるには、このコインの両面を避けましょう。
デジタルで活躍するクラシックレンズ
センサーに対応するレンズ設計から、性能面でデジタルでも活躍できるクラシックレンズはどんな特徴があるでしょうか?
焦点距離で見たとき、垂直入射になりやすい標準レンズや望遠レンズはパフォーマンスが出やすいです。
広角レンズなら、ディスタゴンのような逆望遠系を採用したレンズは相性がいいです(一眼レフ用の広角レンズは多いですが)。
同一メーカーのレンズも相性がいいです。キャノンならキャノンのレンズ、ニコンならニコンのレンズ。同じシステムなら、レンズ設計がセンサーのマイクロレンズの配置と連携しています。
実際、ライカMマウントの広角レンズをソニーα7に使うと周辺部の色ズレが生じますが、ライカM9とかだと出ないというような例があります。
あと、注意事項として、レンズの後玉からセンサーまでの距離を確認しましょう。移動距離の制限があるため、後玉が極端に突出しているレンズは使えないです。
例えばコンタックスホロゴン16mm F8がそうです。超広角レンズとして伝説を誇っていますが、α7につけると、シャッターにぶつかってしまいます(参考:外部ブログ)。
モノクロフィルム時代のレンズ
50、60年代はモノクロフィルムが主流でした。当時のレンズはモノクロフィルムのために設計されています。
例えば有名なライカズミクロン35mm F2八枚(1958-1974)がそうです。
色ではなく、明暗の表現なので、コーティングもそれに合わせて、アンバー(琥珀)なのです。
デジタルカメラで使うとき、コントラストが低く、色がシアン側によります。
生産中のレンズにおいて、フォクトレンダーのノクトン35mm F1.4 SCもクラシックレンズの復刻版として、モノクロフィルム時代のレンズの表現に近いです。
まとめ
デジタルカメラセンサーに対応するためのレンズ設計を解説しました。フィルム時代にないようなテレセントリック性や移動制限が求められています。
そこでクラシックレンズをデジタルカメラで楽しむうえで、より活躍できるレンズの特徴を紹介しました。
クラシックレンズの魅力は「個性」と「表現」にあると思いますので、ここはあくまで性能面の話です。
色ズレがあるなら、モノクロの写真にする、というような楽しみ方もよく見かけます。
今回はここまでにして、次回は最終回です。フィルムとデジタルを使い分ける体験談をします。
では、楽しいカメラライフをお過ごしください!
参考文献:
青野 康廣, デジタルカメラの光学系, 日本写真学会誌, 2010, vol73
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