フィルムとデジタル④:感度

このシリーズはフィルムとデジタルそれぞれの強みと弱みを把握した上、適材適所に使い分けることを目的としています。

感度という言葉が出てきたとき、だいたい高感度性能にまつわる話が多いですね。高感度性能=くらい時もきれいに写るというのが一般的なイメージです。

スマホカメラの宣伝でも、よく出て来る「夜景がきれいに撮れる」とかもそうです。

フィルムに取って代わって、デジタル写真が主流になった一つ大きいな原因が高感度です。

フィルムも高感度性能を求めて、よく頑張ってきました。その歴史を振り返って、デジタルに繋がっていく高感度への挑戦を話します。

(感度の定義から話しますが、興味ない方はスキップしてください)

フィルムの感度とISO

感度はISOXXXと表記するとき、何か違和感を感じたことありませんか?このISOって、国際標準化機構と同じものですか?

同じです。

もともとフィルムの感度を表す規格としてASA(アメリカ規格協会)とDIN(ドイツ工業規格)の二つがありました。

この二つの規格を併記することが本来のISOの感度表記です。例えばISO100/22、前の数字がASA規格で、後の数字がDIN規格です。

しかし、最近ではDINで感度を表記することがほとんどなくなりました。デジタルカメラの感度もISO100とかISO400でしか呼ばないですね。

なので、ASA規格にフォーカスして、詳しく解説していきます。

フィルム特性曲線の話が出てきますので、こちらの記事の節「ラチチュードとは」に詳しく書いてあります。

ASAの定義では、標準にしたがってフィルムの特性曲線を描きます。その標準には感度測定ポイント(speed point)が含まれています。

話を簡単にするため、モノクロフィルムを例に、逆に特性曲線から感度測定ポイントを読みといて、感度を計算します。

まず、縦軸の銀塩粒子密度=0.8+露光しない時の密度をみつけます。そこから横線を引いて、特性曲線と交差したポイントの対数露光量n(x軸)を取ってきます。すると、感度は次のように計算できます。

感度=0.8/10n-1.3
赤い線は感度を計算するステップ

上の特性曲線でいくと、

  1. 露光しないとき(base+fog)の密度 + 0.8(ΔD)得られた密度から、曲線上の対応ポイントを見つける
  2. そのポイントの対数露光量 n = -1.1 を取得する
  3. 上の計算式に代入すると0.8/0.004、感度=200が得られる

もっと詳しく知りたい方はことら(Wiki)を参照してください。

カラーネガやリバーサルフィルムはもっと複雑ですが、考え方は一緒です。

この定義には、高感度を得るためのヒントがあるのです。

nを小さくする、つまり特性曲線のの傾きを大きくすればいいです。それは銀塩粒子の感光効率をあげることと等価ですが、フィルム感度の限界もそこにあります。

フィルム感度の限界:ISO3200

カメラが発明されてから、感光剤の感度の限界を伸ばそうと必死の努力が続けられてきました。

明治時代の写真(乾板)とかみると、だいたい硬いポーズが多いです。それは当時の感光剤の感度が悪く、十分な露光量を得るために数分間もかかる必要があって、「ピース」されたら困るからです。

フィルムが発明された当初(1935年)もISO10しかありませんでした。その後いろんな技術が開発されて、感度がどんどん上がっていきました。

1971年になって、世界標準のISO100のカラーフィルム「フジカラーN-100」と「さくらカラーN-100」が発売されました。

今からしてみれば、ISO100って、普通のデジタルカメラの一番低い感度ですが、当時としてはすごい進歩だったらしいです。

モノクロフィルムにおいて、ISO100が標準となっていたが、やはり一般ユーザーはカラーが欲しかったです。

この高感度カラーフィルムへのニーズはそれ以降のフィルム開発の大きな原動力となりました。

ISO400、800、1600そして3200と、フィルムの最高感度は刷新されていきます。1984年、「ロウソク一本の光でカラー写真がバッチリ」のフジカラーHR1600が発売されました。さらに、1987年になると、コニカからISO3200のGX3200が発売され、最高感度を誇りました。

しかし、最高感度をあげることは銀塩粒子の粗大化=解像度の低下につながります。ISO100からISO3200までの流れは数えきれない技術者たちが、銀塩粒子の荒れとの戦いでもありました。

富士フィルム Superia1600
富士フィルム Superia1600 粒子の荒れがかなり目立つ
コダック Portra160 粒子が小さく、写りがシャープ

ISO3200自体が常用感度ではないということもあって、これ以上の突破も難しいから、フィルムの感度上げはここで止まりました。

限界はISO3200です。

CMOSセンサーによる超高感度の実現

シリーズの一回目で紹介しましたが、デジタルカメラはCMOSセンサーのフォトダイオードを利用して、光信号を電気信号に変換しています。

その変換の後、信号は増幅する回路を通って、ほのかな光でも見えるように明るくできます。結果として、高感度の実現になります。

フィルムの特性である感度と違って、CMOSセンサーの感度は独立した概念です。呼び方上、フィルムの感度に合わせてISO100とかISO200とか呼んでいますが、別物です。

写真を撮るたび、違う感度の設定ができるため、たまにしか使えないような超高感度もユーザーにとって価値のあるものとなります。

デジタルカメラセンサーはCCDからCMOS、そして開口率の増大とノイズの抑制が今までの大きな流れです。それにともなって、実用可能な高感度レベルもどんどん高くなっています。

私がペンタックスK-rを買った2012年ころ、ISO800を超えるとノイズレベルが顕著になって、6400までが常用感度でした。

しかし、今使っているα7RIIでは、ISO6400でも普通に使えて、常用感度はISO25600までとなっています。フルサイズとAPS-Cの違いがあるものの、凄まじい進歩です。

同じフルサイで比較しても、2008年の5DMarkIIは2015年のα7RIIには完敗

CMOSセンサーの開口率やノイズとかの話はまた今度にします。

まとめ

フィルム感度の定義をはっきりしたうえ、フィルムからデジタルまで続いた高感度を求めての道のりを話しました。

今のフルサイズセンサーはほぼ高感度性能の限界まできています。天体撮影など一部のジャンル以外、高感度性能をそこまで求めていないのも事実ですから、ひとまず高感度への挑戦は終わるかもしれません。

高感度フィルムの銀塩粒子は荒いですが、それを好んで使う人もいます。何度も言った「表現」と「記録」の違いです。デジタル写真でもその荒さは再現できますが、若干不自然なところもあります。

今まで、デジタルとフィルムの受光部分にフォーカスしましたが、次回はレンズの話をします。

では、楽しいカメラライフをお過ごしください!

参考文献:
久米 裕二, カラーネガフィルムの技術系統化調査, 国立科学博物館 産業技術史資料情報センター
高田 俊二, 写真感度の向上に関する研究開発40年の歩み, 日本写真学会誌, 2013, vol76

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