先日田村写真の湿板写真のワークショップに参加してきて、薬品製作以外の全工程を体験できました。
前から湿板写真に興味があって、ずっとやてみたかったのです。このワークショップの開催を知ったときさっそく申し込みました。あまりにも珍しいチャンスなので、一日中5回くらいメールの返信がないかを確認しました。
今回は湿板写真の簡単の紹介と、ワークショップの参加体験を話します。
湿板写真って何
フィルムを使って写真撮影をする前に、乾板写真という方式がありました。さらにその前の方式は今回のテーマである湿板です。
名前の通り湿った板、つまり感光剤を液体のままプレートに塗布して使うやり方です。感度はISO1.25くらいで、露出時間も2s〜10sが必要です。
その場でプレートを作って、乾かないうち撮影して現像します。できあがったプレートはそのまま鑑賞できて、一枚の写真として完結できます。
1851年に発明されて、1860〜1880で広く使われていました。ちょうど明治維新のころで、日本において初めて写真を定着させたのはこの湿板方式です。
有名なこの人の写真も湿板で撮ったのです。
湿板写真の魅力は何と言ってもその自然な階調と粒子性をほとんど感じない高い解像度です。一枚一枚丁寧に作られているプレートはまるで工芸品のように美しく、ユニークなものです。
湿板方式にはだいたい2種類があって、プレートの素材で分かれます。ガラスを使うのがアンブロタイプ、アルミ板を使うのがティンタイプです。私はガラスが好きなので、今回は主にアンブロタイプを作ってみました。
製作プロセス
Youtubeで湿板写真の製作動画はあります。海外の方が録画したものです。参考になるので、ここにも乗せておきます。
ガラスプレートの準備
今回使用したの5X7インチのガラスプレートです。写真プリントの2Lサイズに相当します。
手順は下のようになります。
- ガラスエッジのパリを取る
プレートの両面の合計8本の辺をガラス用の砥石で削ります(図1−1)。その目的は安全のためと、のちにコロジオンを塗布したとき、より付着しやすくするためです。途中出てきた粉はブラシで落とします。 - ガラス表面を磨く
クランプでプレートを固定させて、炭酸カルシウムを溶かしてある溶液を数滴垂らします。キッチンペーパーで少し力を入れながら、擦っていきます。 - 表面清掃
きれいなキッチンペーパーを使って、残った炭酸カルシウムを乾かないうちに拭き取ります。まだホコリが付着している場合はアルコールを垂らして、キッチンペーパーで拭き取ります。 - エッジに?を塗布(ちょっと忘れた…)
これでガラスプレートの準備ができました。手でガラス面に触れると汚れがついてしまいますので、ガラスのエッジで持つように以降の操作を行います。
感光剤の塗布
準備できたガラスプレートから湿板を作ります。コロジオンと硝酸銀溶液を使います。コロジオンはノリみたいなもので、本当の感光剤の銀塩粒子をガラス表面に粘着させます。
手順は以下の通りです。
- コロンジオを塗布
ガラスプレートの一角に、親指で上から抑えながら、人差し指と中指で下から支え手持ちます。右手でコロジオンを上から流してから、左手で←↓↑→↓の順で小角度で傾けながら一面を充満させます。余ったコロジオンは瓶に戻します。 - 硝酸銀液体に浸かる
このステップからは暗室で作業します。
コロンジオを塗布した面を上向きにして、ガラスプレートをディッパーの乗せて、ゆっくり硝酸銀液体のタンクに入れます。感光面がムラなく白くなったら取り出します。 - 余分の液体を抜く
コロンジオの塗布されていないガラス面を紙で拭きます。プレートを垂直の状態でキッチンペーパーにコンコンして、余分の液体を抜きます。 - フィルムホルダーにセット
感光剤の塗布した面(感光面)を下向きにして、フィルムホルダーにゆっくりセットします。
撮影
大判カメラと基本同じ手順です。注意が必要なのはフィルムホルダーを縦に置くことと、乾かないうちに露光させることです。
以下は簡単な手順です。
- 構図決め
- ピント合わせ
- 測光、シャッタースピード(露光秒数)決める
- フィルムホルダーを差し込んで、遮光板を引き出す
- レンズ蓋を取って、ステップ3で測った露光秒数が経ったら、蓋を閉める
現像
プロセスはモノクロフィルムの現像とだいたい一緒です。手袋をした状態で作業します。
- 現像液をかける
暗室で露光済みのプレートを取り出して、現像液をかけます。左手の三本の指でプレート持って、勢いを持って上から下まで一気に現像液を流します。 - 現像を止める
明暗がいい感じに出てきたら、停止液をプレートにかけて現像を止めます。 - 定着液に浸かる
ここからは暗室で作業しなくてもいいです。プレートを定着液の中に入れて、5分くらいたつと、白黒が逆転して、写真が“写った”瞬間です! - プレートを水洗
水で洗いながら、コトンを使ってガラス面を拭きます。感光面を拭くときは中心部から外へ軽く引くような感じで、痛みつけを十分気を付けます。
ニスかけ
アンブロタイプの感光面は剥がれやすく、非常に弱いです。そこで、表面にニスをかけて、保護層を作ります。
- 感光面を乾燥させる
アルコールランプの上に、ちょっと高めなところで温めます。エッジから挟むようにプレートを持って動かします。ガラスの伝熱性能が悪いので、動かしながら均一に受熱させる必要があります。 - ニスをかける
感光面がかわいたら、暖かいうちにすぐニスをかけます。今度は下から左手でサポートして、ニスを上からかけます。コロジオンと同じ流し方で一面を塗布します。 - ニスを乾燥させる
ステップ1と同じやり方て、アルコールランプでニスを乾かします。
ここまで一枚の湿板写真は製作完了です。だいたい1時間半くらいかかりました。かなりの手間ですが、出てきたものは湿板写真らしく、目が張るようなトーンです。頑張った甲斐があるということです!
まとめと感想
ワークショップは昼休憩を挟んで、朝10時から午後の5時まで続きました。田村先生が最初一枚作って、その後私は練習で三枚作りました。室内室外のポートレート二枚、風景一枚です。
一つ一つのステップをとても丁寧に教えていただきました。コロジオンや現像液の塗布は難しく、なかなか慣れないものです。ちょっとだけ傾けすぎると、すぐこぼしてしまいます。
ちょっとした小話ですが、ワークの途中、使用したカメラが光線漏れが発生したことを判明しました。外で撮影した写真の下部分に異常な露出オーバーがあることで発覚したのです。
先生はカメラの中をのぞいて、原因はフィルムホルダーのけずりにあると特定して、一枚のティンタイプを作って検証しました。実はこういうのも湿板写真の面白いところです。
湿板写真の質は製作者の技量に依存します。自分の腕を磨けば磨くほどすばらしい写真ができます。今回は初体験なので、失敗も多いです。練習を重ねないといけませんね。
この日、午後6時まで居残って、明治時代と湿板写真の関連性のおもしろい話も聞けました。写真は孤立した存在ではなく、化学、機械学、政治の動きや人々の関心ごとなど、様々な要素と関連して発展してきました。
アンブロタイプがガラスを使えたのも、当時ガラスの大量生産ができるようになったからです。
ほかにもフィルム、プリント、センサーなどにまつわることを教えていただいて、楽しいお話ができました。
湿板写真の教科書を買って、この日の戦果ー5枚のガラスプレートをそれぞれ積んだ箱を持ち出したとき、すでに夜が訪れていました。
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