このシリーズはフィルムとデジタルそれぞれの強みと弱みを把握した上、適材適所に使い分けることを目的としています。
スマホの写真アプリ、インスタが典型的にですが、フィルムの色を真似するフィルターが必ずあります。
つまり、フィルム写真の色が気持ちいいと思われています。逆にデジタル写真はフラットで、特徴がなく、つまらないに見えます。
それはなぜでしょう?
シリーズ一回目の『銀塩とセンサー』で、フィルムとデジタルがそれぞれ明暗から色を生成する仕組みを紹介しました。
今回はそれを踏まえたうえ、フィルムとデジタルの「色」の話をします。
いい色はシーンで決まる
色のいい悪いはかなり主観的なものです。
まったく同じフィルタを風景に適用するのと、ポートレートに適用するのと、全然効果が違います。
例えば風景で言うと、ハイコントラスト(色が色環上離れている)のほうが一般的に喜ばれます。
逆に、女性のポートレートの場合は、ローコントラスト(色が色環上近い)のほうが肌を美しく表現できます。
もっと細かい分類もあります。同じ肌の色を表現したい場合でも、国や文化によって好みが分かれます。
日本人は白い肌がきれいだと思う人が多いですが、欧米人は小麦の色を好む人が多いらしいです。
つまり、撮影シーンや被写体によって、いい色は違います。
このシーンならこのフィルム
多種多様のシーンに対応するため、異なる発色のフィルムが誕生しました。
コダックと富士フィルムがフィルムメーカーとして一般的に知られていますが、この2社だけではないです。
Afga、Konica、Lomographyなど、カラーフィルムが普及し始めた1935から、実に14社から100種類以上のフィルムが販売されていました(出典:Wiki)。
今販売しているフィルムだけでも20種類あります。
各メーカーが今まで培ってきた色に対するセンスが一本一本のフィルムに凝縮されているのです。
「このシーンならこのフィルム」のように、一番適している発色のフィルムをユーザーたちに案内をしています。
私たちはフィルムの色が気持ちいいと感じるのはこの背後の努力があったからだと思います。
デジタルの色は最大公約数
フィルムの交換がいらないデジタルカメラは全てのシーンのいい色から最大公約数を取るしかないです。
その最大公約数というのは被写体の色に対して、
人間の目と同じ写りをする
ことです。
しかし、目と同じ見え方をすることときれい見えることは違います。
ありふれたものにおもしろさを感じられないと同じ理屈で、デジタル写真の色はフラットでつまらないものになってしまいます。
そこでいろんなフィルターやモードが生まれたわけです。
今は少なくなっていますが、昔デジタルカメラの広告には風景モードとかポートレートモードとかの搭載を売りにしていました。
でもそういうモードの使用率が低いです。だいたいフルオートで撮影している場合が多いです。
つまり、表現より記録としての写真が圧倒的に多いです。それは一枚一枚確実にコストのかかるフィルムと違って、デジタル写真はコストゼロだからです。
この事情をよく知っているカメラメーカーたちは「最大公約数を人間の目と同じ写りにしよう」と決めたのだと思います。
じゃ、フィルターやモードを使えばフィルムの色は再現できるのでしょうか?
残念ながら、答えは「できません」。しかし、実用レベルで近づくことはできます。
デジタルカメラは色弱
色覚テストを受けたことありますか?下の図のようなものを出されたと思います。
「74」が見えにくい場合は色弱です。つまり、赤と緑を分離する力が弱いです。
フィルムと比べた場合、デジタルカメラはまさに色弱です。人間の目の特性に合わせて作っているので、色の分離性は下のスペクトル感度図が表しています。
赤と緑の曲線が非常に近いです。580nm近辺の二色があったとしたら、人間の目=デジタルカメラからしてみるとほとんど差がないように見えてしまいます。
一方でフィルムの場合は三原色の分離度が高いです。下の図がFujicolor100というカラーネガのスペクトル感度図です。
同じ580nm近辺の二色で、フィルムからはこう見えます。
色弱なデジタルカメラはどんなに頑張っても、そもそも見えていなかった色は再現できないです。
じゃ、デジタルカメラがフィルムの色を実用レベルに近づけられると言ったのなぜですか?
それはスクリーンが弱いからです!
私たち普段使っているスクリーン、スマホ画面なり、パソコンのモニターなり、表現できる色の範囲はとても狭いです。
せっかく14bitのRAWファイルで撮ってきた写真がまず8bitになって、スクリーンのダイナミックレンジの狭さによって、暗部のディテールなどがさらにつぶれてしまいます。
フィルムが豊かに表現できた色調もスクリーンで見たときは大半失われています。だからデジタル写真でも、フィルターを使えばなんとなくフィルムっぽい色ができるわけです。
高精度なスクリーンを使う、あるいはちゃんとプリントアウトするなら、フィルムの色の豊かさは本当の力を発揮できます。
たぶん、これもクリストファー・ノーランのような映画監督がいまだにフィルムを使っている一つの理由かもしれません。
まとめ
フィルムとデジタルの色の話をしました。
違う種類のフィルムの色調が楽しめるのはカラーフィルムのおもしろいところです。
デジタル写真でも、色調整の工夫をさえすれば、満足のいく色調ができるでしょう。
色についての議論はここまでにします。次回は感度めぐる話をします。
では、楽しいカメラライフをお過ごしください!
コメント
すごく詳しい説明を書いて頂きありがとうございます。
デジカメの画像をLightroomで調整してもなかなか気に入った色にならず、悩みながらこのページにたどり着きました。
デジカメは色弱なんですね。
フィルムで撮りたくなりました!
ぜひフィルムでやってみてください!難しくなく、楽しく写真生活が送れると思います。
今までコスト0で撮って、つまんないなーと思って消した写真も、実はプリントしてたら良い写真だった可能性あるんですかね?なんか今すごく後悔してます
プリントして鑑賞することとスクリーンで見るのはかなり違うと思います。
一度プリントアウトしてみてはいかがでしょう。